健康ガイド
健康ガイド
FIPとは?猫伝染性腹膜炎の基礎知識と早期発見のポイント
時間:2025-09-01 15:04:44閲覧数:

はじめに

猫伝染性腹膜炎(FIP:Feline Infectious Peritonitis)は、猫において最も致死率が高いウイルス性疾患の一つであり、発症した場合の予後が非常に悪いことで知られています。しかし近年、治療薬の進歩により、FIPは「治療可能な病気」へと変わりつつあります。本記事では、FIPの基礎知識、発症メカニズム、早期発見のポイントを分かりやすく、かつ専門的に解説します。

240_F_241717474_xqC3TMtj7Hg4kdzwOPgHSs64lRcExtBl.jpg

1. FIPとは何か?

FIPは、猫コロナウイルス(FCoV:Feline Coronavirus)によって引き起こされる全身性の炎症性疾患です。FCoV自体は一般的に無害で、多くの猫は感染しても無症状か、軽い下痢などで終わります。しかし、ウイルスが体内で突然変異を起こした場合、免疫反応を介して多臓器に炎症を引き起こすFIPを発症します。FIPは主に若い猫(6ヶ月〜2歳)や免疫力の弱い猫、多頭飼育環境の猫に多く見られます。


2. FIPの分類と症状

FIPは大きく分けて「ウェットタイプ(滲出型)」と「ドライタイプ(非滲出型)」の2種類があり、それぞれで症状が異なります。


● ウェットタイプ(滲出型FIP)

最もよく見られるタイプで、腹腔や胸腔に液体(滲出液)が溜まるのが特徴です。

  • 腹部膨満(お腹が大きくなる)

  • 呼吸困難(胸水による圧迫)

  • 発熱、食欲不振、体重減少

  • 活力低下、黄疸、貧血



● ドライタイプ(非滲出型FIP)

体腔に液体が溜まらない代わりに、臓器や神経系に肉芽腫性病変ができるタイプです。

  • 慢性的な発熱

  • 神経症状(麻痺、てんかん、ふらつきなど)

  • 眼の異常(ぶどう膜炎、虹彩炎、眼底出血など)

  • 腎臓、肝臓、リンパ節の腫れ



ウェットタイプとドライタイプが混在する「混合型」も存在します。


3. FIPの発症メカニズム

FIPは、猫コロナウイルスが変異し、単球やマクロファージに感染して全身に広がることにより発症します。感染した免疫細胞が血管周囲に炎症を起こし、血管炎(血管の破壊)を引き起こすことで、体液の漏出や臓器障害が起きるのです。FIPの発症には以下の要因が関与すると考えられています:

  • 猫コロナウイルスの体内変異

  • ストレス(引っ越し、多頭飼育、手術など)

  • 免疫力の低下

  • 遺伝的素因



4. 早期発見の重要性と診断のヒント

FIPは進行が早く、早期発見と適切な治療開始が猫の生存率を大きく左右します。以下のような症状や兆候が見られる場合、すぐに獣医師の診察を受けるべきです。


● 早期に見られる主なサイン

  • 食欲不振、体重減少

  • 持続的な発熱(抗生物質に反応しない)

  • 元気がない、遊ばなくなる

  • 眼が濁る、視力の低下

  • 歩き方が不安定、頭を傾ける



● 検査と診断方法

  • 血液検査(白血球、グロブリン、A/G比などの異常)

  • 超音波検査(腹水や胸水の有無)

  • PCR検査(FCoVの遺伝子検出)

  • 穿刺液検査(腹水・胸水の性状、PCR)



確定診断が難しいことも多いため、臨床症状と検査結果を総合的に評価して判断されます。


5. 治療の可能性と進歩

近年、GS-441524(商品名:NeoFipronis®など)という抗ウイルス薬の登場により、FIPは治療可能な病気となりました。この薬はウイルスのRNA合成を阻害し、FIPの進行を止める効果が報告されています。


● 治療ポイント

  • 治療期間:12〜16週間(猫の状態によって延長)

  • 用量:体重1kgあたり15〜30mg/日(FIPの型により異なる)

  • 投薬方法:錠剤や注射剤が存在(口内投与が主流になりつつある)



多くの臨床例で高い治癒率が示されており、早期治療により約80〜90%の猫が回復すると言われています。


6. 予防と感染拡大の対策

FIPを100%防ぐワクチンは現時点で存在しませんが、以下の対策によりリスクを大きく下げることが可能です。

  • 多頭飼育ではトイレや食器のこまめな清掃を徹底

  • 新しく迎える猫は一定期間隔離し健康観察

  • ストレスを最小限に抑える飼育環境の整備

  • 定期健康診断や血液検査の実施

  • 感染が疑われる猫との接触回避



おわりに:FIPを恐れず、正しい知識で向き合うために

FIPは長年「不治の病」とされてきましたが、今や確かな治療手段が確立されつつあります。大切なのは、早期に異変に気づき、迷わず適切な医療につなげることです。愛猫の健康と命を守るために、飼い主である私たちも正しい知識を持ち、信頼できる獣医師と協力しながら、科学的なケアを実践していきましょう。